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福島地方裁判所会津若松支部 昭和38年(ワ)43号 判決 1964年5月11日

原告 的場正雄

右訴訟代理人弁護士 増淵俊一

被告 有限会社渋川商店

右代表者代表取締役 渋川将晴

右訴訟代理人弁護士 富岡秀夫

主文

一、訴外長谷川茂が、昭和三八年一月二八日被告との間においてなした、被告に対する債務の支払いに代えて別紙第一目録記載の商品を被告に譲渡する旨の代物弁済契約は、これを取消す。

二、被告は原告に対し、金五五一、一七六円及びこれに対する昭和三八年四月一一日から右完済に至るまで年五分の割合による金銭の支払をせよ。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

四、この判決は、原告が金一五〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

五、被告が金一五〇、〇〇〇円の担保を供するときは、前項の仮執行を免れることができる。

事実

≪省略≫

理由

(一)≪証拠省略≫並びに原告本人尋問の結果を綜合すると、原告は菓子卸商を営み、昭和三六年一〇月頃から長谷川商店こと訴外長谷川茂に対し継続してバターピーナツを売渡していたが、その売掛代金が未済であったところから、被告は、右代金の支払のために、原告に宛て、(一)金額二七七、二〇〇円、満期昭和三八年二月七日、支払地及び振出地は共に福島県会津若松市、支払場所東邦銀行会津支店、振出日昭和三七年一二月二〇日、(二)金額二七四、〇二〇円、満期昭和三八年三月一日、支払地及び振出地は共に福島県会津若松市、支払場所東邦銀行会津支店、振出日昭和三八年一月二八日という約束手形二通を振出したこと、すなわち原告は、昭和三八年一月二八日当時、訴外長谷川茂に対し、合計金五五一、二二〇円の約束手形(売掛代金)債権を有していたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

(二)  そこで、訴外長谷川茂と被告会社との間に原告が主張するような代物弁済契約が成立したかどうかについて判断するに、≪証拠省略≫並びに被告代表者本人尋問の結果を綜合すると、被告会社と訴外長谷川茂とは昭和二七年頃から取引関係にあったが、被告会社は訴外長谷川茂に対し、右訴外人が被告会社宛に振出していた約束手形を決済するために、昭和三八年一月一四日に金一八〇、〇〇〇円を、同年同月二八日に金五六〇、〇〇〇円をそれぞれ貸付けたこと、被告会社は右訴外人に対し、昭和三八年一月二八日現在において右貸付金のほか金六三〇、〇〇〇円の売掛代金債権を有していたこと、また被告会社は、右訴外人が訴外国民金融公庫より金七〇〇、〇〇〇円を借受けた際連帯保証人となったが昭和三八年一月二八日当時において未だ残債務が金二四五、〇〇〇円あったので、右長谷川茂に支払能力がないことから考えて被告会社が連帯保証人として国民金融公庫に債務を支払わなければならない立場にあったこと、そこで被告会社は、将来右保証債務をも支払わなければならないことを考慮に容れた上、訴外長谷川茂に対する前記貸金債権及び売掛代金債権の支払いに代えて、昭和三八年一月二八日、右訴外人より代物弁済として別紙目録第一、第二記載の商品(卸売価格にして金一、七六七、七九一円相当)の譲渡を受け、同年同月同日及び同年二月五日の二回に亘って右商品の引渡を受けたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(三)  しかして、≪証拠省略≫並びに原告本人、被告代表者各本人尋問の結果を綜合すると、訴外長谷川茂は昭和三八年二月三、四日頃から全く経営が行詰り、同年同月一〇日及び一四日の両日に行われた債権者会議において債権者が右訴外人の財産状態を調査したところ、右訴外人の債務は三二口合計金一三、九八〇、〇六九円の多額であるのに比し、その積極財産としては、売掛金一、三四四、五〇九円、在庫商品が価格にして金四七一、一三七円、自動小型四輪車一台、電話加入権(会津若松局二、二五二番)、現金五〇、六三一円に過ぎなかったことが認められ、被告代表者本人尋問の結果中、昭和三八年一月二八日頃右長谷川茂の在庫商品が価格にして金五、〇〇〇、〇〇〇円もあった旨の供述部分は信用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。右認定事実によれば、訴外長谷川茂が被告会社に代物弁済をした前記昭和三八年一月二八日当時も全く無資力であったこと、従って右訴外人がその債権者である原告に対して詐害の意思をもって前記代物弁済契約がなされたことを推定するに難くない。

(四)  しからば、前記代物弁済契約は、その当時原告が有していた債権額の範囲内である別紙第一目録記載の商品の限度において、詐害行為として取消を免れない。そして、被告代表者本人尋問の結果によれば、代物弁済に供された別紙第一、第二目録記載の商品は殆んど換価処分されていることが認められ、訴外長谷川茂に回復せしめることが不可能であるから、その回復に代えて、被告は原告に対して別紙第一目録記載の商品の価格を賠償する義務がある。しからば、被告は原告に対して、右価格金五五一、一七六円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和三八年四月一一日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

よって、原告の本訴請求は、すべて理由があるから正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を、仮執行及びその免脱宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田久雄)

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